我々は幾つかの実務的な問題に対して、MOAI(機械学習と数理最適化の融合)技術のテストを行っています。ここでは、その実験結果について報告します。
セキュリティ制約付き起動停止問題
最初の実験は発電所の起動停止問題に対するものです。ベンチマーク問題例は、MATPOWERと呼ばれるもので、最大で6515バス、1388ユニット、9037ラインの比較的大規模な問題例です。
過去データに基づいたランダムな需要を準備し、基本的なMOAIを適用したところ、厳密性を失うことなく2倍程度の高速化に成功し、近似性を許すオプションでは、0.1%の相対誤差の解を10倍から200倍の速度で計算することに成功しました。
この結果はランダムな需要データに基づくものなので、実際のデータに対する保証はありません。成功の鍵になるのは、予測です。我々は、単に「点」を予測するのではなく、分布や問題例自身を予測する方法を提案しています。似た問題をお持ちの実務家の方は、過去のデータを大事に保管しておいてください:-)
配送計画問題
次の実験は、配送計画問題に対するものです。この問題は、トラックの配送順を最適化する問題で、容量制約付きのベンチマーク問題例 (OR-Lib.) に対して行いました。現在のSOTAパッケージを使う、数百顧客程度の問題を10分程度で誤差1%未満程度の解を得ることができます。顧客の地点と需要をランダムに摂動した問題例を作り、それをSOTAソルバーで求解しておき、それを用いてMOAIで高速化してみました。驚くべきことに、適切な機械学習手法を使うと、5000反復かかっていたものが10反復で同等の解を算出することができました。解の精度を失うことなく、約500倍の高速化です。
この技術を使うことにより、より高頻度での再最適化(リアルタイム最適化)や動的かつ不確実な環境での最適化が可能になります。動的かつ不確実な環境における最適化では、未来のシナリオをたくさん生成し、個々を最適化して、そのアンサンブルをとるのが簡単な解決法です。この際、たくさんのシナリオを高速に解けることが成功の鍵になります。我々は、MOAI技術が、新しい配送最適化の道を開くものと確信しています。
おわりに
MOAI技術は、問題依存で色々なテクニックを駆使する必要があります。他の問題(施設配置問題、スケジューリング問題、ロットサイズ決定問題)に対する実験から、適切に機械学習と最適化を融合することによって、高速に良好な解を算出できることが確認されています。ただし、最も重要なものは過去のデータです。実務に携わる方は、過去のデータを決して廃棄しないように大事に保管して、来たるべきMOAI時代に備えていただければと切にお願い申し上げます。